数字の「見える化」

 どの企業も毎年税務申告する為に決算をせねばなりません。これは法律で決められている財務会計と言う対外的なものですが、この数字は過去の1年間の行動の結果を見える化したもので、その過程は見せてくれません。 

 

 皆さんは、その1年の間に何回きちんと数値を掴みましたか?

 

 縁起の悪い話ですが、倒産した企業を見ると、1年前には既に危機的状態にあり、その時に正しい手を打てれば倒産を回避できた可能性が高いと言われています。事実私が過去に見てきた企業にも殆ど当てはまります。

 つまり、大切なことはその結果に至るまでの過程の「見える化」なのです。 

 

ここでまず一つだけ先にお伝えしておきたいことがあります。

 

 簿記がわかるに越したことはありません。

しかし簿記がわからずとも「見える化」すれば加減乗除の計算だけ経営は見えるようになります。

 

 この数字を加工して経営に活かすことを管理会計と言います。そしてこれには法律的な決まりはなく、あくまで各企業が社内的に活用する為のもので、どう使用して構いません。

 

経理や財務・税務の難しいことはその為に契約している会計士さんや税理士さんにお任せしましょう。

 

経営者がやるべきことは、過程をコントロールし正しく、結果として良い決算をして、自分や家族と社員を幸福にすることなのですから。

見える化するプロセス

STEP 1.

まずはPL(損益計算書)とBS(貸借対照表)と売上原価の構造だけは理解しましょう。

 

いきなり難しいことを言うなと思われるかもしれませんが、PLとBSは決算書にある表で、まずは大まかに構造と意味を掴んでもらえれば大丈夫ですので安心して下さい 

 

資金繰表は間違いなく理解されていると思いますので省略します。

 

貸借対照表(バランスシート)

 

 

資本(自己資本)と負債(他人資本=銀行借入や買掛金等)を使って資産を購入します。

 

資本と負債の合計以上に資産を購入することは出来ませんので、必ず  資産=資本+負債  という式が成り立ちます。つまり左右がバランスしているので対象対照表のことをBALANCE  SHEET (BS)と呼びます。

 

損益計算書(PL)

 

 

売上 - 費用 = 営業利益

 

費用には売上原価(≠仕入原価)と経費(人件費と一般経費)が含まれます。

 

利益(PROFIT)と損(LOSS)の関係を表すので、損益計算書のことをPLと呼びます。

*実際には営業利益の下に営業外損益・特別損益が出てきますが、ここではPLの基本構造を知る為に省略しています。

 

売上原価の構造

 

上の図で視覚的に覚えて下さい。

 

前期末棚卸高 +  当期仕入高 -  当期末棚卸高  =    売上原価(=当期売上分の原価) 

 

前期の残り+今期仕入の中から、当期に売った残りが今期末の在庫です。つまり、その差額が今期売上分の原価になるわけです。

 

*仕入原価はA=@10、B=@15といった個々の商品を仕入た単価のことです。

*仕入高は当期仕入額の合計である当期仕入高のように一定期間の仕入れの合計を意味します。

 

STEP2.

最低限、月単位での決算を正しく実施できるようになりましょう。

正しく=月内に発生したことは基本的に月末までに計上するということです。

 

富士経済研究所の平成28年度金融機関向け調査では、

・取引先における月次決算を行っている割合 は

 ①2割以下 31.0% ②3~4割 24.4% ③5~6割 24.8% ④7~8割 19.0% ⑤9~10割 0.8%

・棚卸(実地棚卸しのみならず、帳簿による推定棚卸しも含む)をやっている割合は   

①年1回実施 72.4% ②毎月実施  20.3%、③その他  7.3%

 

 これだけ見ても、かなりの企業が月次決算を行っていないことがうかがえますが、この中には経費や売上を月をまたいで計上したりしている先もあると思われ、正しく実施している企業は更に少ないと思われます。

 

 棚卸については毎月できればベストですが、数字と現物の誤差を修正することが目的ですから、少なくとも半年に一度は施すべきでしょうね。 実際大手企業も年2回が普通です。

 

 うちには経理担当がいない、会計事務所に領収書など全て渡してきちんとやってもらっているから心配ない、と言われる方々がいると思いますが、それでは月次決算が出てくるのが遅すぎる可能性があります。

 

 例えば前月末の数字が翌月20日頃にわかっても、20日が経過しており、その分対策が遅れるからです。通常月次決算は(速報値でも良い)翌月第4営業日くらいまでに完成させることが重要です。

  

 今は非常に安価で(導入費用0、月々数千円程度)、かつ簿記に詳しくなくても処理できるクラウド会計システムがあるので、自社で計上処理し、それを会計士に確認してもらうという流れに変えることをお勧めします。

 

*因みにT-Bizコンサルティングは日本で一番導入事例の多いfreeeという会計システムの認定アドバイザーですので必要に応じてご紹介致します。


さて、STEP2.までで漸く「見える化」の準備ができました。いよいよ、ここからが本番のスタートです。

 

ここからは、月次で出てきた数字を基に、いろいろなことを判断する指標を見て、判断し、対応する方法を覚えていきます。

 

STEP3. 

運転資金と収益性の確認      

確認科目と確認する内容

 

BS:現預金残、純資産=>前月対比

 

②PL:収益性指標:売上・原価・総利益・販管費・営業利益 => 売上前年対比・(売上予算対比)原価率・総利益率、人件費率総経費率・営業利益率 

 

③PL:変動費と固定費=>損益分岐点の確認、安全率の認識

    

④資金繰表 => 当月と最低限3カ月先までの資金繰予測

 

目的

 

①企業経営を継続するには、言うまでもなく現金がどれだけあるかが最重要です。現預金残と純資産が前月比増えたのか、減ったのか確認し、その原因を掴みます。

 

②その現金は自己資本(個人事業の場合は元入金)と他人資本(借入)で仕入、生産した商品・サービスに経費と利益を載せて顧客に販売し、現金で回収して初めて手元現金として戻ってきます。

                          

そのイメージを表したのが下 図です。1年間商売をした結果のPLをBSに反映すると下記のようになります。BSはこのように変化するということを覚えておいてください。

 前期BSとPL=前期まである資産を使って今期の売上を作る。

今期末BS=今期の利益が今期末のBSに加わり、来期売上を作

原資にな資本が増加する。

 


 実際には、どれだけの費用をかけて、どれだけの利益が出たのか、出ていないのかを数字で明確に掴まねば、儲かっているのか損しているのかの実態がわかりません。 

 

 PL指標については、まずは全社レベルで見ますが、管理体制の有無、濃淡によっては部門、部、課、個人、商品別にま解して分析していきます。当然細かいほど分析の精度は上がり、対応も細かくできるようになります。

 

*利益の元になる商品の原価は収益に大きなインパクトを与えます。ここでは原価管理の仕方についても強化する必要があります。

 

③損益分岐点とは利益が0になる売上高のことを言います。これは固定費と変動費の関係によって変化しますが、この指標を用いれば赤字にならないための最低売上がいくらか?が掴めます。

 

安全比率とは損益分岐点売上高に対しての売上の比率を示す指標で、売上=損益分岐点売上高なら0%。5%なら売上が5%落ちても利益0で済む、赤字にならないということを示します。

 

④言うまでもなく資金繰りとは、種々の活動から生まれる現金が、今後どのように出入りして行くかという企業の生命線を握るデータです可能な限りブレが出ない予測を立てることが非常に重要になります。 

STEP4. 

予算作成と予算実績対比、安全性・効率性指標の設定と確認

 

①単年度・月別予算策定(個人別、課別、部別、部門別などの組織単位)

 確認科目と内容:売上、総利益額、経費、営業利益額 =>予算実績対比、前年対比 

  

②安全性指標:支払い能力や財務面での安全性を図る指標です。

 短期安全性:流動比率・当座比率

 長期安全性:固定比率・固定長期適合比率

 資本構造分析:自己資本比率・負債比率

 

③効率性指標:持っている資産をいかに効率的に使用しているかを図る指標です。

 総資本回転率・経営資本回転率・売上債権回転率・棚卸回転率・有形固定資産回転率

       

目的

 

①組織単位で数字で明確な目標設定を行うことで、個人・組織レベルでの経営意識向上(やる気、売上・利益・経費意識)を図ります。

 

また、各科目の増減差異の原因を分析し、次の行動施策を立て逐次実行し、年度予算達成ができる体制を作ります。

 

②③STEP2.で覚えた収益性の指標に加えて、企業の安全性や効率性を示す指標を設定し、ワンランク上の経営を目指しましょう。

 

 銀行の与信に大きく影響するもので、これがわかり、改善すれば銀行の信用度が増加します!! 

  

注1:この段階では目標設定と達成度合いに応じた人事評価制度の設定も必要になってきます。

 

注2:この段階で中長期的目標を設定することも検討課題ですが、単年度予算達成のノウハウがないと、いくら中長期計画を立てても絵に描いた餅にしかなりません。まずは短期の目標達成意識とノウハウ習得を図り、中長期計画は概略程度のものとすることが現実的です。

 

注3:安全性・効率性指標は難しくはありませんが、長くなるのでここでは省略し、一緒に進めていく中で詳しくご説明します。

STEP5.

中長期計画立案と実行管理

 

単年度の予算達成ノウハウをベースにして、中長期計画を策定。

  単年度の期中には翌年度計画も意識しながら、打ち手を策定、実施します。

                 

  目的

 

①成長の為には設備・人材等の投資を実施する必要があります。それらは単年度で終わる話ではなく、企業の将来を見据えたうえで、現在に逆算した中長期的な戦略に基づいたものである必要があります。

 

 必要資金調達含めた中長期計画を立てることできるようになれば、計画的で継続的な成長ができるようになります。 

   

STEP6.

戦略的指標の導入  ここまで来れば上場企業並みの経営ノウハウが身につきます。

 

①キャッシュフロー(CF)の理解と運用

 

②投資判断の為の正味現在価値(NPV)、内部収益率(IRR)の理解

 

目的

 

①通常中小企業は資金繰表を使用して現金の出入りを管理しますが、中長期の計画を実行するには資金繰も中長期で見なければなりません。

 

 そのためには投資可能な資金フリーキャッシュフロー(FCF)を計算する必要が出てくるわけです。その算出方法を習得しましょう。

 

②未来へ向けた投資は必要ですが、それが実際に現金を生みださねば意味がありませんね。その投資額と将来得られる現金のいずれが多いかを判断する為の手法がNPV,IRRという指標です。

 

 将来の現金の価値まで考えた投資判断ができるようになり、上場企業並みの経営が可能になります。

 

注1:NPV、IRRは少々複雑なのでここでの説明は省略します。一緒に進めて行く中でご説明します。

 

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